食生活は1:1:3
食事バランスを『この栄養素がどうの、あの栄養素はどのくらい』などと考えながら組み立てて行くのは大変な困難を伴います。
当院では、もう少し生活の中で出来る考え方をご紹介しております。
ここ数年、『一日30品目』とか『一日に野菜は300g以上』と言った話を良く耳にします。『食事のバランス』の話題です。
一昔前のような『カロリー絶対主義』とでも言うべき栄養管理の時代から比べれば、摂取する栄養素のバランスに目を向けている、と言う点で遥かにましなものであるのは事実ですが、それでも、私は何か物足りなさを感じます。何が物足りないのでしょう。
私にとっては、これらの目標が実際の生活の中で活用する事がとても難しいものである事が物足りなさの原因です。一日に食べる食事の食材品目を毎日数える事、或いは毎日摂る野菜の量をきちんと量る事、どちらも社会生活を送りながら実行する事は殆ど不可能です。確かに現在日本で支持されている栄養学的な要素を満足させるために考えられた可能な限り具体的な目標なのでしょうが、実際のところあまりに具体的過ぎて逆に実行が難しくなっていると言う側面があるのもまた事実です。厳しい言い方をすれば『生活感が無い、机上の空論である』のです。
では、食事のバランスはどのように考えたら良いのでしょうか?
私がまだ少年の頃、私の実家の主治医をして下さっていた先生がいました。実のところ彼に憧れて私は医師を志したのですが、残念ながら私が医師になった姿を彼に見せる事は叶いませんでした。その医師が患者さんに対して良く言っていた食事のバランスを表わした標語が『食生活は1.1.3』と言うものです。
これは実際に調理をする際に使用する食材の重量比で、食事のバランスを考えようと言うものです。まず主食:副食を1:1.3とします。次に副食の中身を大きく動物性蛋白質・植物性蛋白質・野菜海草類の3つに分け、それぞれを重量比で1:1:3となるように食材を調節します。このようにバランスを取った食事を作り、栄養を摂っている時、一番最初に述べた目標は自動的に概ね達成されてしまいます。この比率を守ろうとすると、色々な野菜や海草を食べないとおいしい食事が成り立たない為、品目数も必然的に増えてくるのです。つまり品目を数えたりするような面倒は省いて、ただ作る時の重量バランスだけに気を付ければ食事のバランスを概ね達成出来る、と言う非常に簡便で実際的な方法論なのです。
ただ実際のところ、このバランスを取りながらの食事と言うのは今どきの人にはかなり厳しいものがあります。例えば一回の食事で肉または魚を100g食べるとしましょう。するとそれに対して100gの植物性蛋白(主に豆類と言う事になりますね)、更に3倍に当たる300gの野菜もしくは海草類。既におかずだけで500g。主食を合わせると約1Kgと言う途方もない量の食事になってしまいます。これでは『1回の』食事量ではなく『1日の』食事量です。何故こんな計算結果になってしまったのでしょうか?そう、スタートの『肉100g』が原因です。ですが今どき一回の食事に肉や魚を100gくらい食べるのは当たり前です。そしてこの事実と理論のギャップこそが、現代日本人に生活習慣病が果てしなく増えて行く重要な背景なのです。
色々と食生活を改善するための方法論は存在します。ですが、どの方法論にしても、結局のところ、自らの生活習慣に対するスタンスを大きく変える事が出来ない限り、『机上の空論』になってしまいます。なるべく普段の生活の中で採用出来る手法を用いる事。100点を目指してその揚げ句に継続出来ない目標を掲げるのではなく、60点で良いから継続可能な目標を掲げ、徐々に点数を上げて行く事。この2つが当院における生活習慣改善の基本スタンスです。食のバランスについても、大まかな総論はここにお示ししたものになりますが、具体的なレシピがないとやはりイメージしにくいものです。そう言った部分を少しでも解消する為に、当院待合にはこのバランスを基本に据えたレシピ(管理栄養士作成)を置き、皆さんに参考にして頂いています。